そのまま部屋へ直行し部屋着へ着替える。すると携帯に電話がかかってきて、病院からかと思って急いで出たところ珍しく涼香からきたもので一気に力が抜けた。

『お父さんから聞いて、元気ないんじゃないかと思って電話してみたの』

「あぁ、どうも」

『本当だ、珍しく落ち込んでるみたいね』

「それなりに」

『一つのミスにいちいちつまずいてたらきりないじゃない、所詮人間なんだから誰でもミスはするものでしょ』

励ましてくれているのだろうけど、そのセリフは俺の神経を逆なでるようなもので。

「だけど医者だけは絶対許されないんだよ、特に外科医は。人間なんだからしょうがないじゃ済まされないんだよ」

『そんなに思いつめなくたって』

「分かったような風に言われるのが一番むかつくんだよ。生きてる人間切ったこともねぇのに、何もわかんねぇだろ」

上司の娘だからと今までは丁重に扱っていたが、もう我慢できなかった。乱暴な物言いに、またヒステリックを起こすかと思ったら珍しく、ごめんと小さな声で謝れそこで電話を切った。

こんな精神状態でいちいち構ってられるか。もうどうでもいい、何もかもめんどくさい。重い気持ちのまま部屋を出ると、心配そうに仁菜が再び声をかけてきた。


「彰人さん?」

「……俺、今めちゃくちゃ機嫌悪いから話しかけないでくれる?」

「なんで?」

「なんでもだ」

「ねぇ、彰人さん、何かあったの?」

「しつけぇな、お前のそういう無神経なとこ本当勘弁して欲しいんだけど。言われた通り黙ってらんねぇのかよ」

「でも、人に話したら気持ちも楽に……」

「話しても理解できねぇだろ、お前なんかに俺の仕事の大変さなんか絶対わかんねぇだろ」

「自分の気持ちなんて相手に絶対分かんないって、そうやっていつも1人で殻に閉じこもってたら苦しくならないですか?」

「あぁ、もううるせぇな。俺はそうやって人の気持ちも知らずに好き勝手言う奴が一番嫌いなんだよ」


そう言った翌日の朝、あのうるさい奴が部屋からいなくなっていた。俺が怒ったものだから、水嶋のところにでも行ったのかもしれない。
最初こそ、以前の静寂が心地良く感じていたものの、一人の人間の頭の中には限界があって考えが行き詰ってしまう。かと行って、近くのカフェに行ったり、本屋に行って気分転換しようとしたがやっぱり何か足りないのだ。

あいつの言う通り、確かに話を聞いてくれる人間は貴重なものだったのかもしれない、なんてうっすら思い始めていた頃。
あいつが出て行って2~3日経った頃だった。