「ほ、ほら言動に気を付けて」
「早速、ルリルリちゃんの衣装来てもらおうかな」
そのいかがわしい衣装をお披露目される前に、一刻も早くこの場をあとにしなければならない。そんな中水嶋から解放された仁菜こそっと、
「彰人さんも一緒に泊まって」
と懇願される。いくら子犬に同情しながらもそこまでは面倒見れず即答する。
「やだよ」
「だって襲われたらどうしよう。仁菜の貞操の危機が迫っている」
と、きゅっと胸の前で両手を握る仁菜。そんな仁菜の両肩に手を置いて諭した。
「……それは大丈夫。水嶋にも選ぶ権利はある」
「どういう意味ですか、彰人さん」
ムっとした仁菜に、水嶋が再登場する前に姿をくらますべく、仁菜の目の前だろうがお構いなしに、携帯を片手に大声で水嶋に聞こえるように、さる芝居に出る。
「あ!病院からだ、なんだろう、こんな時間に!」
「えっ、今電話鳴ってない!なんでそんな演技するのっ」
そう言って、ゆさゆさ俺の体をゆする仁菜。それを完全にスルーしてさる芝居を続ける。
「えぇっ!?今日手術した患者が急変した!?それは大変だ!今すぐ向かう!」
「彰人さんのばかーっ、人でなしー、ゲス野郎ーっ」
ゆさゆさ揺すりながら、俺の悪口を言う仁菜に、聞き捨てならず
「あ?」
と一瞬、怒りを露わにすると、今度は泣き落としにかかってきた。
「うっ、ばか、ばか、ばかー、お願い、行かないでーっ」
そう言って汚い顔をおしつけられそうになるが、それも華麗にスルー。急いで家を出て行こうとする俺に、水嶋も顔を出した。
「先輩、病院からの呼び出しですか?しょうがないですね、今度生ルリルリの恰好見に来てください。あとで写真送りますから」
「あぁ、病院からじゃしょうがない。ルリルリの恰好楽しみにしてるよ。それじゃ、水嶋、仁菜のこと頼んだぞ!くれぐれもお手柔らかになっ、じゃっ!」
「彰人さんのばかーっ」
逃げるようにマンションから出て、車までたどり着くと仁菜の悲鳴が聞こえたような気がした。
後ろ髪ひかれるような思いとはこのことだろうか、少し騙したようで仁菜に罪悪感を感じながらも、しかし車のアクセルを踏む足には力が入る。ここで足止めされてはいかん、携帯の電源を切って即刻立ち去らなくては。
仁菜には本当に悪いことをしたと思っている。だけど正直、逸る胸を抑えきれない。ふふふ、これで厄介者払いできた、と。確かにさっきまで仁菜に対して哀れみを感じていた、だけどやっと優雅な一人暮らしに戻れると思ったら、高笑いが止まらなかった。