「お前、いつも付き合ってない女の子にでもそんなことしてんの?」
「普段はしませんよー。だけどルリルリちゃんは別です」
「あいつ確かに頭のネジ一本外れてるけど、中身はいたって普通の女の子なんだから。それに男慣れしてないだろうし、あまり過度なスキンシップは」
「そうはいってもルリルリちゃんを前にして、僕の欲望はとどまれるかどうか」
「そもそも、ルリルリちゃんて何なんだよ?」
実在しない二次元のキャラクターをそこまで愛でられるとは、俺にはとてもじゃないけど理解し難い感情だった。
そんな俺の目の前に、スマホの待ち受け画像を突き付けルリルリちゃんとやらを見せつけられる。
「ほら先輩見てっ、これがルリルリちゃん!」
その予想外のルリルリちゃんの姿に、思わず閉口してしまう俺。
もっと、何か、日曜の朝やっているような幼女向けのアニメに出てくる、魔法少女のようなフリフリの服を着たようなものを想像していたのだ。
しかしその画面にいるのは、おまけついでに局所を隠したような怪しいコスチュームを着た女の子だった。紫色のビキニのような上下に、まるで体を隠す気のない透けた素材の布が付随する。アラビアンちっくな踊り子のような衣装だった。
思わず固まってしまった俺には目もくれず、画面のルリルリちゃんを指先で愛でる。
「ね、思わず触りたくなる体してるでしょー?」
「……まさか、これを仁菜に着させようとしてるのか?」
「そうですよ?これがコスチュームですから」
「いやだって、これ……、布の面積狭すぎやしないか?」
「なんでー?可愛いでしょ、僕のお嫁さんです」
そう言って画面上のルリルリにキスをする危ない後輩。思った以上に水嶋が変態で、本当に仁菜を預けて良いものかこの期に及んで心配になってきた。
いや、ここは前向きに考えよう。仁菜だってメイド喫茶で働いてる位だ、恰好はどうあれコスプレの一つや二つお手の物だろ。それに二人の間に、愛が芽生えるかもしれない。そうだ変態同士、気が合わない訳がない。
今日は立て続けに二件、予定されていた手術が入っていた。どちらも手技的には簡単なものだったが、今日ばかりは自分でもどこか神懸かったようなスピードで、手術を終わらせることができた。
手術が終わった後、病棟へ送られた患者さんの元へ行き、問題ないことを確認してすぐさま家路へ着く。水嶋の方も今日は午前中外来で、午後は他の手術の助手についていたようで俺より早く帰宅した模様。
仁菜には少し悪い気もするが、しょうがない。俺はやっぱり、できることなら1人暮らしが良い。誰にも自分の生活に干渉して欲しくないのだ。