「やめろって本当に何もないから」
そうやって止めに入るも、ついに仁菜が力負けしたのか少しドアが開いて小さな仁菜がちらりと姿を現す。その姿に涼香がびっくりしてドアノブから手を離した途端バタンと勢いよくドアが閉まった。
涼香の目は獲物を見つけたかのような恐ろしいものになっていた。
「……今何かいた」
そう言って再度ドアノブに手をかけ力いっぱい引っ張り、とうとう仁菜を部屋から引きずり出した。
「わぁっ!」
勢い良く出てきた仁菜の腕をぐいっと掴んで、引っ張り上げる。
「何このちんちくりんっ」
「今日、同じ悪口二回目」
そう言って涙ぐみながら口を尖らせる仁菜。そんな仁菜にお構いなく、ゴジラの炎は火を増すばかり。
「何なのこの子!」
「ひぃーっ」
怒鳴りつけられ頭を抱えて悲鳴をあげる仁菜に、俺はため息をついた。
「親戚の子なんだ、訳あって今一緒に暮らしてて」
「親戚?」
「見て分かる通り別にやましいことなんて何一つないし。すぐに出てく予定だから」
「それでも嫌!親戚だって一緒に住むなんて考えられないっ。今すぐ違うところに引き取ってもらって!」
「動物じゃないんだから、そんな簡単にいくかよ」
「じゃ私の家で、この子引き取るわ」
有無言わせないセリフに冷たい目で見下ろされて身震いさせる仁菜。
「荷物まとめなさい」
こうなったら自分の要求が通るまで、頑として首を縦には振らない。
「勘弁してくれよ」
「じゃこの子どっか預けられるアテあるのっ?」
俺達のやり取りに両者の顔を見合わせながら、困ったような顔で行く末を見守るしかない仁菜。
「分かった、俺の知り合いに一人だけ頼める奴がいるから。そいつに連絡してみるよ」
「えっ!?」
びっくしたような顔で俺を見る仁菜。
「今日、会った水嶋だよ。別に変なことされたりしないから」
「えぇーっ!」
大きな声をあげる仁菜に、ゴジラの方をちらっと見て尋ねる。こいつと、
「……どっちがいい?」
「う……っ」
言葉に詰まる仁菜だったが、しばらく考えた後、鬼の形相のゴジラをちらっと見てやっと頷いてくれた。そしてその場で水嶋に電話をすると、二つ返事で快く了承が出る。