「違う、違う、なんで中指がここに来るんだ」
「うわーん、スパルター」
泣きごとを言う仁菜。
頭が足りないせいもあって言われた通りにできない仁菜に、とうとう嫌気がさして奴の右手を掴んで手取り足取り教えてやることに。
すると奴は一体何を勘違いしたのか途端に静まり返り、ぽっと頬をピンク色に染めて俺を見つめてきた。
シカトしようとした時、そっと俺の手の上に仁菜の左手が乗っかる。
思わず、ぞわっとしてすぐその手を払いのけた。
「気持ちわりぃな」
「あぁ、彰人さんが、やっぱり優しい人で良かったです」
「は?」
優しい人?
思わず唖然としてしまう。
たった今その俺に手を振り払われたばかりなのに、よくそう思えるな。
まぁ、こいつの見当違いなスーパーポジティブは今に始まったことじゃないか。
その後食事を終えて、リビングのソファーに座ってコーヒーを飲みながらテレビを見て過ごす。
しかし、右側がなんか暑苦しい。俺の中の不快指数バロメーターがどんどん上昇していく。
もうその存在をしばらくシカトしていたいところだったが、そうもしていられない。
仁菜が俺のすぐ隣で、ソファーに座っていたのだった。
まだそれでテレビの方を向いているのなら許せたかもしれない。
しかし、奴は体ごと俺の方を向いてじっと熱い視線を送ってくるのだ。
まるで尻尾を振った犬が、構って欲しいアピールをするように。
「……何だよ?」
痺れを切らし、あからさまに不機嫌そうにそう聞く。
「ご飯おいしかったです、ありがとうございました」
「どういたしまして……、あのさ、自分の部屋にテレビあんだろ?そっちで見ろよ」
「そんなっ、彰人さんと一緒にテレビが見たいんです」
見てねぇだろうが……っ
「じゃ、そっちのソファー座ってくれるか」
「ここがいいんです、お兄ちゃんの隣がっ」
そう言ってべったり俺の右腕に抱きついてくる。
その瞬間、不快指数のバロメーターが上限いっぱいに振り切った。
有無を言わさず強引に俺から引きはがすと、
「懐くなっ、それからその呼び方止めろっ!」
と叫んだ。
しかし、スーパーポジティブはこんなことじゃめげやしない。
「これなら、お兄ちゃんと呼べる日もそう遠くはありませんねっ」
そう言ってニコニコ微笑んだ。
ふざけんな、呼ばせてたまるかっつーの。