いつもと変わらない当直の夜。
……のはずだった。
それが、まさか、あんな目に遭うなんて。
ことの発端は、院内ピッチに入った看護師からの連絡。
『先生、急アル1件とってもいいですか?』
「いいよ、着いたら連絡して」
救急車からの受け入れ要請に、急アル位ならと快諾した。
そしてものの数分でやってきた救急車。
ストレッチャーに乗せられた女性は具合が悪そうに横たわっていた。
「名前は楠原仁菜さん、21才、女性、急性アルコール中毒です」
「レベルは?」
「JCSでI-3、名前と誕生日だけかろうじて言えます。本人は全くアルコール飲めないそうなのですが、店でカフェオレとカルアミルクを間違って出されてしまったものを飲んで酩酊、どれ位飲んだかは不明です。今のところ嘔気はないとのことです」
「間違えて出されたって、自分で飲んで気付かなかったのか」
間違える店員も店員だが。
飲んだ張本人が普通気付くはずだろう。
そんな、突っ込みどころ満載の送り。
そしておかしな点はそれだけじゃなかった。
「何か旅行中だったんでしょうか?」
横にいた看護師が救急隊員にそう尋ねる。
患者の荷物が60L以上はあるスーツケースだったからだ。
「いえ、詳細は教えてくれなかったのですが、旅行ではないようです。」
旅行以外でこんな大荷物抱えて街中に出ることなんてあるか……?
まさか、家出?21才にもなって?
まぁ深入りするのはやめとこう。
経緯はどうあれ軽症なんだ、このレベルだったら外来で点滴一本位落とせば帰れるだろうし。
何やら面倒そうな患者だからさっさと帰ってもらおう。