「寒いなぁ、今日!」

「浅水[アサミ]は寒いの苦手だもんな。
この時期になると朝と夜はいつも寒がるし」

 灰色に朱の混じる空の下、

ブレザー姿の少年2人は

傘を差しながら黄昏時の青春を謳歌していた。



「うっせぇ。そうゆうお前だって、
さっきから自分の肘ばっかり手で
さすってるじゃんよ、玖珂井」

 玖珂井は傘の先で肩を小突かれた。


「おい、やめろよ。ただでさえ、

例の狭間で異変が起きちまったせいで

変な雨が降ってんだからよ。

触っちまって怪我でもしたら浅水のせいだからな?」





浅水は視線を赤黒いタイル敷きの地面に向ける。

狭間に異変が起きる前、

そこには水色に白のドット模様が広がっていた。


「まったく。
誰だよ、狭間に亀裂なんか入れたヤツァよぉ!」


「誰とかっていういぜんに、
人間には不可能だろう。

現実世界の異能を持たない人間には、
狭間なんて見えないんだからさ。


浅水だって、見えないだろ?」


「見えないし、見たくもねぇな。
だいたい、異界にはロクな住人がいねぇって噂じゃん」

「確かにな」


 高2の試験を受けていた時間から
過去へ来た玖珂井は、自分が行きたかった時間まで
戻れたことに安堵ていながら、少し気になることがあった。

それは、この時、友人と2人での帰り道
の間にも狭間で誰かが異界へ連れてかれているのか、

という疑問だった。