錆びついた階段を上った先に待つ
扉の前で、膝をつく。
 
(ちゃんと数えなかったけど、
多分、
100段近く上ってきたんじゃないかなぁ、俺……)

 間もなく、扉横のインターホンから、
粗々しく何処までも重低な響きのする声が
青年の金色の頭へと轟く。

『遅いぞ、貴様ぁ!
んなところでへばってねぇで、
さっさと入って来いや……』

「ひぃっ。すす、すすす、すいませぇん!」

 慌てて顔を上げ、ドアノブを引く。

「遅れて申し訳ありません、幽です!」

 飛び込むようにして入った室内は壁紙から天井、床を
ダークバイオレットに統一され、
線香にも似た何とも渋い匂いが充満していた。


 先刻、幽に罵声を浴びせてきた男は、
黒で統一されたカーテンの向こうでこちらを睨みつけていた。

『貴様ぁ……、時間に遅れて来るとはいい度胸だな』

 男に近づけば近づくほど、タバコの匂いがきつくなる。

「すいません。
あの、道に迷ってしまって……」

 男はタバコを手にしながら、
まるで虫けらでも見るような目で幽を睨みつけてくる。

 少し見つめられてから、深いため息を吐かれる。

『もういい。許してやるよ』

「ありがとうございます!」

『ただし――』

 幽の紫のT-シャツの襟が掴まれる。
 青年の、筋肉の無さげな痩せ細った色白の腹部がのぞく。

『次やったら、お前を征服計画のチームから外すからな。覚えとけ』

 乱暴に突き押され、体勢が崩れる。