星螺市は異能を持つ者の入居が許される、

国内唯一の学園都市。


 ここには、他の学校の入試を受けようとして

門前払いを受けた学生たちが大勢集まってくる。






 今、カウンター席の端で
コーヒーを飲んでいる男女も、

恐らく、ここに来るまでに
多くの差別を受けて苦労してきた人間なのだろう。


 淹れたてのコーヒーの香りが漂う中、

 女子生徒の唸るような声が聴こえてくる。


「異能を持ってるってだけで

ろくに入試も受けさせてくれないなんて、

差別もいいところね」


「柚子葉[ユズハ]も経験してるんだね。

俺なんか、何もしてないのにさ、

いきなり能力無いやつに横から蹴られたよ」



 柚子葉、という名前に、

玖珂井は聞き覚えがあった。


(柚子葉って、

生徒会副会長の

あの納多[ナタ] 柚子葉か!?)


 玖珂井は柚子葉たちの座る席の
隣に腰掛ける。

「マスター、いつものお願いします」


 向かいに立つ、蝶ネクタイの男は

ウィンクして注文に答えてくれた。



(あ、そうだ。

アレの確認の為に僕は過去へ来たんだった)


 横で話し込んでいた男女二人組のことなど

気にも留めず、玖珂井は不正のために

鞄からノートを取り出す。


 すると、横から

小鹿の耳の如く茶色の髪を

サイドアップにまとめた女子生徒が近寄ってくる。



「あー!? もしかしなくても、玖珂井くんだよね?」


(やめろ、

鼻先にペロキャンディ近づけてくんなや!)


 玖珂井はノートの見直しに手間取っていた。




 それを察したのかいないのか。


 小鹿は目の前で勉学に励む二宮金次郎

もとい玖珂井臥龍の手からノートを摘み上げた。

「おい……」

「いつも余裕で百点取るんだから、

今度のテストだって大丈夫でしょ?」


 玖珂井は額に汗浮かべて否定する。


「いや、

今度のはわからないぞ」


 ダークブラウンの前髪の下に
開かれたその大粒の瞳がくねりと弧をえがく。

「さては玖珂井くん、能力を使ったね?」


 逃げ切れないとわかった玖珂井は頷き、

反省文やその他諸々の処分の免除をお願いする。