「―帰るぞ。」



有無を言わせない力でぐっと引っ張ると、美咲は直ぐにふらりと立ち上がった。


しかし。


「ちょっと!!!」



美咲はカウンターにしがみついて抵抗し、俺を睨(ね)め付けた。




「私、帰らない!今日は、帰らないから!」



でかい音楽がかかっているため、幸い周囲の客に気付かれてはいないようだ。


ただ、隣の軽男は、事の成り行きを楽しそうに黙って見ている。




「駄目だ。俺、お前に話がある。」



「嫌!今日だけは、嫌!」




美咲は駄々をこねる子供のように、首を横に振った。



そんな美咲を見下ろしながら、掴む手はそのままに、ふぅと息を吐く。



少し、気持ちを落ち着けたかった。



「お前の大学、ここの近く…とは言えねぇよな。」



『大学』というワードを出された瞬間、美咲がぐっと押し黙り、目を伏せた。



「いつも…ここ、、来てんのか…?」




美咲は俯き、答えようとしない。




「なぁ…、大学―」



辞めたって、本当なのか、と。



訊ねようと俺が言いかけた所で。




「お願い」




美咲が顔を上げて、懇願するかのように呟いた。




「帰るから…あと、少しだけ…居させて」



少し、震える声で。