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夜の繁華街。



ちょうど俺の就職した会社の直ぐ近くの、飲み屋ばかりが続く一角。




「さむ…」



俺は寒さに身を縮ませながら、重低音の響くクラブの入り口が見える位置に潜んでいた。




黒い扉の脇には、ノッテ・ディ・ルーナという文字がネオンでピカピカと派手に光っている。



俺は目を細めながら、それを眺め―。





『ただの、噂…なんですけど―』




今朝、知代から聞いた話を思い出していた。




『なんか、、美咲、、最近…クラブに通ってるみたいで…』



『-クラブ?』



『はい。大見近くの…確か、ルナっていう名前だったと思います。』



『そこに美咲が通ってるの?』



『なんか、見たっていう友達が何人かいて。全然中高の時と違うって。。それで…そこでDJやってる人のこと追っかけてるみたいなんです。』



『……好きってこと?』



『…はい、かなり。』



『そっか…まぁ、それは別にいいんじゃない?』




『・・・でもそのDJっていうのが、、なんか、裏がありそうで。。。』



『―どういうこと?』



『美咲は相手にされてはいないみたいなんですけど、、その…何人も女の人がいて、、お金とかもらってるの見たことある人とか居て。私、心配で…そ、そしたら…ほ、本当じゃないかもしれないんですけど、美咲…』




見覚えのある人影が、クラブの入り口に立ったのを見て、俺は静かに動き出した。





『大学、辞めたって・・・』





白い息が、闇をふわりと漂う。




俺の目の前で、パタンと閉まった重そうな黒い扉を見つめ、一呼吸置いてから、手を掛けた。