「ったく。何ムキになってんだか。」



俺は一人で肩を竦める。


母が心配する理由も、少し理解できる気がした。



けど、俺自身も忙しくて。



その夜はひっかかったものの、暫くは深く考えなかった。



それから、一週間後、位だったろうか。



朝、コンビニに行くのに、自転車を玄関まで出したところで、美咲の中学の同級生が偶然家の前を通りがかった。




「あ、美咲のお兄さん、こんにちは。」




「あれ、知代ちゃん?」




中学校の頃の記憶と比べると、大分大人びたその子は、はにかんだように笑う。



「覚えてくれてたんですね。嬉しいな。」




「よく家に遊びに来てくれてたから。また美咲と遊んであげてね。それじゃ」




軽い挨拶だけして、自転車に跨った。



が。



「…あの……」




知代が俺を呼び止める。



「ん?どうしたの?」




何か躊躇うように俯く知代を覗き込むようにして訊ねると、ゆっくりと彼女は顔を上げた。





「美咲、、最近、元気ですか。」




その顔には、困惑と不安が表れていた。





「?俺も忙しくてあんまり顔合わせてないけど、元気だと思うよ。ただ、大学が面白いのか、帰ってくるのが遅いから、心配だけどね。」




なぜ、そんなことを訊くのかわからず、俺は安心させるように笑いかける。





「……やっぱり…。」



だが、知代の納得するような声に、胸騒ぎを覚えた。




「どういうこと?」




今度は俺が眉間に皺を寄せる番だった。





「……どこまで本当かどうかはわかりません。ただの、噂…なんですけど―」




それまで静かだったのに、突然、風が強く二人の間を吹き抜けていった。