母とのそんなやりとりがあった後の深夜。



風呂を出て、頭をタオルでがしがし拭きながら、階段を上りかけた所で。



カチャ


玄関の鍵が静かに回った音がした。





立ち止まって見ていると。



美咲が音を立てないように、こっそりと中を伺ったのと目が合った。




「…おかえり」




ぎくりと肩を強張らせた美咲は、声の主が俺だとわかって、あからさまにほっとした表情を見せた。



「あ、ただいま、お兄ちゃん。」




―確かに。



母親から聞いた通り、これまでおとなしめの服装を好んで着ていた美咲とは違い、今の格好は少し、派手だった。



というか、肌の露出が多い。



おまけに階段を上ってきた美咲からは、酒と煙草の匂いがする。





「…母さん、心配してたぞ」




そう伝えると、美咲は溜め息を吐いた。



「知ってる。最近超うるさい。」




「ちょっと…遅いんじゃないの?」




「何よ!お兄ちゃんまで、五月蝿く言うわけ?お兄ちゃんだって夜遅くなることあるじゃない」



「俺は男だけど、お前は女だろ。」




「そんなの、差別だわ。」




階段の途中で、忌々しげに呟くと、美咲は俺のことを押しのけて、部屋に入ってしまった。