「………あるよ。」
ぎゅっと握り締めた缶はもう温(ぬる)くなっている。
「……いっぱい、ある。」
子供の頃。
タイムマシンがあればいいのに、と思っていた。
それは大人になってしまった今でも同じ。
「手始めに、この豆乳ラテをココアに変える。」
口を尖らせて言えば、藤代くんがクッと笑った。
「それなら、戻らなくても叶うよ。」
そう言って立ち上がると、藤代くんがポケットから小銭を出して自販機に入れた。
青く点灯したボタン。
そのうちの一つを藤代くんが押すと、他の全部が消える。
当たり前のことが、なんだか物悲しく思えた。
どれか一個を選べば、他の全部も決まるのか。
どこかひとつが間違えば、他の全部も間違いになるのか。
―藤代くんは、やり直したいこと、あるの?
そんな質問が、喉まで出掛かっていたけれど、どうしてか、訊けなかった。