「零、今日はこのまま帰るの?」
レコードの整理を終えて、立ち上がった所をメリッサに呼び止められた。
「ん。」
短く返事して、裏口から出て行こうとすると。
「花音のところ?」
小さく溜め息を吐いて振り返ると、メリッサがにやにやしてこっちを見ている。
「言わなくたってわかるわよー。なんか、嬉しそうだもの。」
「じゃ、訊くなよ」
ふと、時計を見れば、針は19時を差している。
確か花音の仕事が終わるのは早くて21時だと聞いている。
俺はメリッサに構わず、背を向けた。
「零、変わったわよね。花音のおかげかしら?」
茶化すようなメリッサの声を背中に受けながら外に出た。
弓形(ゆみなり)の月が、こんな明るい街でも空を照らしている。
ふ、と息を悪戯に吐いて、空気を白く染めてから、温めておいた車に乗り込んだ。
「柄じゃ、ねーな。」
運転席から助手席に置いてある紙袋に視線を移して、自嘲気味に笑う。