ドアの隙間から、僅かにハルヒコくんの姿が見える。

いつも無表情の彼に、驚きの感情が表れていた。

「……ユカリさん」

「お久しぶりね。相変わらずいい声してるじゃない」

長い黒髪を揺らしながら彼女はハルヒコくんに近づく。

そして、赤いマニキュアの塗られた白い指で、ハルヒコくんの頬をなぞった。

「あの頃よりステキになったんじゃない? またデートでもしましょうよ」

「しません」

「プッ、相変わらずね」

吹き出すユカリさんに、ハルヒコくんは無言で視線をそらす。


……何?

2人の間に漂う、微妙な空気……。

この人……ハルヒコくんの、何?


モヤモヤした気持ちで2人を眺めていると、ハルヒコくんがユカリさんをすり抜けて、私のところにやってきた。

「どうぞ」

そっと差し出されたスポーツドリンクの入ったグラスを、少し戸惑いながら受け取る。

「ありがとうございます」

波紋の広がるグラスの中に目を落とした私は、再びカツン、という靴音に顔を上げた。