カツン、と高い靴音が響いて、顔を上げた。

ハルヒコくんが戻ってきたのかと思ったけれど……違った。

開け放たれたさび付いたドアから身を滑り込ませてきたのは、長いストレートの黒髪の、女の人だった。

グレーのストライプのパンツスーツを着た、知的な感じのとても綺麗な人。

「……あら。ここにもいないのね」

赤い唇から漏れる声は、女の私でも魅惑的だと感じる。

彼女は部屋の奥に座る私に気付くと、にこりと微笑んだ。

「もしかして……さっき倒れてハルに運ばれてた子……かしら」

「あっ……はい」

少し背筋を伸ばして頷く。

「ここにハルがいるって聞いて来たんだけど……彼、知らない?」

「あの、今出て行ったところです……」

「そう。すれ違いになっちゃったかしら。……ありがとう」

柔らかく微笑んで、彼女は私に背を向けた。

しゃんとした背中がとても綺麗。

──なんて、見とれていたら。

「あら」

彼女は廊下の方に向かって微笑みかけた。

ハルヒコくんが戻ってきたんだ。