薄暗い廊下へと消えていったハルカの背中ををしばらく見つめていたハルヒコくんの視線が、こちらへと向けられた。

目が合うだけで、心臓が口から飛び出そうなくらい跳ね上がる。

「あ、あの、えっと……」

何か言葉を探して視線を彷徨わせ、そして勢い良く立ち上がった。

「あの、私またご迷惑をおかけしたみたいでっ、すみまっ……」

ぶん、と風を切れるくらいの勢いで頭を下げたら、クラリ、と脳内が揺れた。

気持ち悪い浮遊感に一瞬だけ顔を顰めると、体が横に倒れていくのが感覚で分かった。

咄嗟に手を伸ばしたら、それを誰かが掴んで力強く引っ張ってくれた。

「倒れた時に頭を打っているかもしれません。あまり動かない方がいいですよ」

ハルヒコくんの心地よい低音ボイスが、すぐ耳元でした。

……ああ、やっぱり、いい声。

耳に優しく響いて、体中から力が抜けていく。

またあの素敵な夢の中に連れて行ってもらえそう。

この海の風に包まれたような感じ……。


あ、そうか。

香水だ。

爽やかな風みたいな、この香り。これにさっき包まれてた。