「ーーー雪音、お前それ、どーした」

「…ーーーーーハル、カ」



……そのくせして、わたしはずるい。




非常階段でびしょ濡れのままうずくまっていたわたしは、どう考えても不自然だった。顔をあげるとそこには…いちばん逢いたくない、ひと。

冬先の夕方、薄暗いコントラスト。困惑の表情が深い黒。



「まさか、それ、誰かに、」

「別になんでもないの。ひとりでドジしちゃっただけ、だから…っ、じゃあね」



言うわけない、言えるわけない。嗚咽を呑み込んだ。
だってその瞳が、わたしを、まっすぐ、見すえている、から。



「ちょっと待っ…」



伸ばしたハルカの手が、わたしの手首を、すこしだけ、かすめた。

わたしは逃げだした。

だんだんと奥行きが闇色に染まってゆく、先の見えない廊下を、ただ駆けだしていた。