何で、って前に嬉しそうに合鍵を渡したのはお前だろう、と思いながらも、それを言葉にすることは出来なかった。

真面目だけが取り柄といっていいくらい真面目な彼が他の女とベッドを共にしている。

その光景があまりにも衝撃的すぎて、言葉を発することが出来なかったのだ。


「なぁ、」

「……なに。」

「もう出てってくれよ。」

あぁ、この男は反省もしないのだとわかった。

そして私は、言い訳をする価値もないことを。


涙は堪えた。こんな男のために無くなんて悔しくて。だから玄関のドアが閉じるまでは流さなかった。

外の風に晒されると、まるで悪夢のような出来事で呆けていた脳が働きだす。

そこで初めて、私は涙を流したのだった。





「恥ずかしいでしょ、アラサーの女が浮気された上に捨てられるって。」

あぁ、私は一体、後輩に何を話しているのだろう、と思う。三十路前の女にこんな話を聞かされて、彼も心底迷惑なはずだ。