そして、彼は呟く。
「神崎さん、わかってないなぁ。」
「だから何がよ。」
「単刀直入に言いますとね、僕はこの口紅を落とすことより、」
あなたの家に上がりたいんですよ。
その真っ直ぐな瞳で私を捕らえる。
……何を言っているんだろう、彼は。
これじゃあ、まるで。まるで彼が誘っているみたいじゃないか。
……まさかね。まさかそんなこと。
「そのまさかですよ。」
「え?」
「クレンジングオイルを貸してほしいなんて、ただの建前です。……神崎さんの家に上がりこむための。」
あのさわやかで、さらりとしたいつもの彼はどこにいってしまったのだろう。
いつもの彼からは想像も出来ないような鋭い瞳は、私を離さない。
「僕はずっと神崎さんのことが好きだったんです。」
「だから、彼氏と別れたと聞いた時は嬉しかったし。」
「絶対に自分なら悲しませないのにって。」