浅沼楓は振り向いて辺りを見渡した


ふわふわした茶色い髪と茶色い瞳、それに似合わない若干ドスの効いた低い声が勝手に脳内を侵食する



だめだ、考えるな、集中、集中



校庭で活動する運動部の声が聞こえる
蛍光灯は今にも消えそうで、4本中2本は既に点滅している


薄暗い教室はカーテンの隙間から差し込む茜色に少しずつ染まっていく

雲が晴れて太陽が沈む

今まで陰に隠れていたのに、終わりになって姿を現すなんて、図々しい奴だ


と、
『ピピッピピッピピッ』
タイマーが鳴る。

「よいしょっ、とっ、」
教科書と参考書の山の上、鳴り続けているキッチンタイマーを止めた

stopのボタンを押すと、60:00の数字が並ぶ


眼鏡を外し、最後の1問が空欄になった解答用紙の上に置いた

投げた、と言った方が正確かもしれない


両腕を上げて、背もたれに寄りかかる