「隣だね、よろしくね」
学校生活において、
転校生っていうのは
別に珍しくない。
それに、私はそもそも
そういうのに興味がなかった。
けど、この人に対しては違った。
ニコニコと愛嬌良く笑う顔が、
不自然だったわけじゃない。
絶世の美男子というわけでもないし、
奇抜な格好をしていたわけでもない。
普通の一般的な男子高校生に見える。
ただ雰囲気が、
周りの平凡な高校生たちとは
何かが違っていた。
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私立凪乃香(なぎのか)高校2年生に
なった今日、賀茂拓海(かものたくみ)
という男が転校してきた。
私のクラスに、私の席の隣に。
始業式を終え、
教室に戻りSHRをした私たちは
すぐに解放された。
SHRが終わると同時に、
隣の席に人が群がってきた。
他のクラスの人も覗きにきている。
その中心にいる彼は
ニコニコと笑いながら、
怒涛の質問責めに軽く応えている。
私は手早く、少ない荷物をまとめ上げ、
教室を後にした。
私は他の人とは、違うものを持っている。
“物”とかそういう
“形のある”ものではなくて、
目には見えない“もの”。
私の体の半分は吸血鬼でできている。
体と言っても、
外観からはわからないような、
特性に近いものを
体内に持っているっていうのが
正しいのかも。
ニンニクが食べられなかったり、
日光に若干弱かったり、
けがの治りが早かったり______。
けど、十字架は平気だし
聖水は未だ見たことがないから
わからないけど。
そんなところかな。
後は、影に潜めるとか
闇に紛れるっていうくらい。
今日は雲1つない晴天で、
日光は惜しみなく地上に注がれている。
ちょっとしんどいかな、これは…。
私は人気のない校舎の影に行くと、
するりとそこから影の中に入った。
影って言っても、
そのままで中はほとんど暗闇に近い。
ひんやりとしたコンクリートの
建物の中を、電気も何も付けずに
歩いている感じ。
これは誰にも見られてはいけないから、
細心の注意は払っているけど。
もし誰かに見られたら、
それこそ私の人生が終わる。
吸血鬼の存在を知らない科学者によって
解剖されるかもしれないし、
はたまたヴァンパイアハンターに
捕まってもおかしくない。
いや、これはちょっとした
冗談なんだけども…。
大騒ぎになるのは、一目瞭然。
そんなことを考えながら、
私は闇の中を歩き始めた。