思いがけず痛い目に遭いながらも、リズに人間らしい食事をさせる計画は成功に終わった。
オレは後片付けを引き受けて、リズをキッチンから追い出す。もう痛い目には遭いたくない。
後片付けといっても、洗浄装置がすべてやってくれるので、装置の中に食器や鍋を入れるだけだ。
洗浄装置のスイッチを押して、オレはリズより少し遅れてキッチンを出た。
廊下に出て、突き当たりの部屋にリズはいると聞いた。そこはリズの大叔母さんが生前使っていた部屋だという。ノックして扉を開けると、リズは右手奥の窓際にあるコンピュータの前にいた。
部屋の中は壁一面が書棚になっていて、クランベールでは珍しい紙の本や、書類を束ねたファイルがたくさん並んでいる。
植物好きだったという大叔母さんの部屋にしては、意外なほど植物はなかった。窓際に並んだ小さな鉢だけだ。
ベッドや化粧台などがないということは、この部屋は書斎か仕事部屋だったのだろう。
「本の数、すごいな」
「昔の人だからね。それに資料や研究成果は必ず紙に残してたの。電子データはうっかり消えちゃう事があるから。私もそうよ」
「あぁ、確かに」
リズの研究室も戸棚にいっぱい書類が詰まってたっけ。
「ここにあるのは、大叔母さんの研究成果?」
「えぇ。実用化されたりしたものは科学技術局が保管してるけど」
そういえば、リズの大叔母さんは科学技術局の副局長まで務めたすごい科学者だった。同居していたバージュ博士も科学技術局に務めてたし、そんなふたりと一緒に暮らしていたのに、リズはどうして科学技術局ではなく警察局に入局したんだろう。
それが気になって尋ねると、リズは少し苦笑しながら答えた。