幸せそうな伯爵令嬢とベレールの姿に心が温まったのか、先ほどまでの緊張した様子がリズから消えている。いつものリズと他愛のない話をしながらゆっくりとハーブティーを楽しんで、オレたちは喫茶店を後にした。
食料品店に戻って注文した商品を受け取り、決済をすませると、リズは買い物袋をオレに預けて、さっさと先に立って歩き出す。魂胆は丸見えだっての。
オレは立ち止まって声をかけた。
「リーズ。無理して早歩きすることないだろ。そんなにオレのそば歩くのイヤ?」
リズも立ち止まり気まずそうに振り返る。
「イヤ……じゃないけど。……緊張するから」
まずかったかな、恋人予行演習。ここまで意識されるとは思わなかった。考えてみれば、オレって見た目はリズが夢見る王子様だったっけ。
理想の王子様と恋人ごっこなんて、初心者のリズには厳しかったか。
俯いて目を逸らすリズに歩み寄り、オレは頭を軽くポンポンと叩いた。
おずおずと上向いた視線がオレを捉えて揺れる。
「恋人予行演習は終わり。もう変に意識しないでいつも通りでいいんだよ。オレは君が作ったただのロボットなんだから」
ふたたび俯いたリズが小さな声でつぶやいた。
「あなたのこと、ただのロボットだなんて思ってないわ」
「え?」
ちょっとドキリとして息をのむ。
チラリとこちらを見た後、あさってに視線を向けたリズは一気にまくしたてた。
「そりゃあ、その体は確かに私が作ったものだけど、中身はプログラムが作り出した人格じゃなくて、人間なんでしょ? そんなのただのロボットじゃないもの」
あ、なるほど。一応中身のオレを人間だとは思ってるわけか。その割には完全に備品扱いだったような……。