いつものように腰をケーブルで繋がれてデータを取得されながら、何度目かわからない大きなため息をついたとき、コンピュータの前に座ったリズが頬杖をつきながら呆れたように指摘した。
「あのね、シーナ。ロボットって無意識にため息ついたりしないのよ」
「だって、ため息しかでねーし。てか、どんな意識でため息つくんだよ」
「感情表現のためね」
「じゃあ、間違ってねーだろ」
結局、令嬢を誘拐したロボットは、局に連れて帰ったときには記憶領域をきれいに消去されていたらしい。当然ながら、マスターの情報もなにひとつ取得できなかった。
破壊しなくても、これじゃ前回より酷い気がする。
備品が言っても説得力ないので、リズを通して一応要望は出した。
なにしろこれまでロボット捜査員はいなかったので、ロボット法に例外が明記されていない。法の遵守に関する絶対命令に対して、例外を認めてもらうように要望したのだ。
つまりロボット捜査員に限り、違法ロボットに対して、その内部プログラムやシステムに干渉する権限を認めるという例外。
今回のように目の前で消えていく犯罪の証拠を、指をくわえて見ているしかないという悔しい状況を改善するためだ。
オレだけじゃなく班長をはじめ、あの場にいた捜査員はみんな同じ思いをしただろう。
要望は十中八九通るだろうとリズは言う。だが、この要望は「絶対命令」という国家レベルの統一規格と法律を変更することになるので、一朝一夕にどうにかなるものではないらしい。
定例捜査会議で提示されたリズの要望は、二課長から捜査部長、警察局長官、国民議会、貴族院と流れ、その各部署で承認を受け、最終的に国王陛下の承認を得て初めて実施されるのだ。
実施が決定してからも、法の整備、プログラムの変更とテストに一斉配布ととんでもなく時間がかかる。
オレが生きている間に実施されるのかどうか、甚だ不安でしょうがない。
なにしろオレ、現時点では余命一年未満だし。
もう一度盛大なため息をつくと、リズがなだめるように肩をポンポン叩いた。
「まぁ、あなたのおかげで今後の改善点が発覚したわけだから、それはあなたの功績として加味されると思うわよ」
「それって少しは寿命が延びたってこと?」
「私見ではね」
「リズの私見じゃなぁ」
なんとも心許ない。
今後のことを考えると、同じようなことが起きないようにするためにも、平行して早急に対策を講じる必要があるのではないだろうか。
オレのせいじゃないのに、失敗が続いてお払い箱とかは勘弁して欲しい。
それを思うとまたため息が漏れた。