シャスから受け取った反重力飛行装置を背負いながら一緒に早足で廊下を進む。この装置がいるってことは、またオレが最前線ってこと?
今度は絶対命令に邪魔されないようにしないと。
現場の第二居住地区は初仕事で出動した商店街の裏手に広がる一般住民が多く住む地区だ。警察局のある官庁街からも近いので、移動に乗り物は使用しない。
とはいえ、急行しなければならないので、警察局を出たオレたちは、飛行装置を作動させて、道路を走行中のエアカーより少し上空を飛行した。歩道を走ったり警察車両でサイレンを鳴らしながら緊急走行をするより、一般人の邪魔にはならない。
現場に向かいながら、ラモット班長から送られてきた事件の概要を確認する。
誘拐されたのはラヴィル伯爵家の十歳になる令嬢。第一居住地区にある友人の家に遊びに行った帰り、迎えに来たエアカーに乗り込もうとしたところを、見知らぬ男に素早く拉致されたらしい。
エアカーで迎えに行った伯爵家の使用人の証言によると、拉致した男はエアカーの扉を素手で破壊するほどの怪力を有していたというので、ヒューマノイド・ロボットである可能性が高い。
使用人が壊れかけたエアカーで、後を追ったが第二居住地区まで行ったところでエアカーが動かなくなり見失ってしまったという。
通報を受けた警察局の特務捜査二課初動捜査班が付近を捜査した結果、潜伏場所を特定できたらしい。
クランベール王国は名前の通り王制で、それを支える貴族たちがそれなりに権力を持っている。王城は小高い丘の上にあり、第一居住地区は王城をとりまくように斜面に広がった貴族たちの邸宅地なのだ。
宙を滑るように進みながら、オレは横にいるシャスに尋ねた。
「さらわれた女の子は無事なのかな?」
「たぶん」
「身代金の要求や犯行声明は?」
「まだないらしい」
シャスは硬い表情で前方を見つめたままこちらに見向きもしない。仕事中だからにしても、いつもに比べて口数も少なく、あまりに素っ気なさすぎる。