国家警察局のある官庁街から港湾地区までは少し距離がある。オレたちは警察局所有のエアカーに同乗して現場に向かうことになった。
エアカーには地球の車と違ってハンドルやペダルはないが、操作パネルといくつかのレバーが並んだ運転席はある。そこへ班長が座り、オレは促されて隣に座った。
班長がタッチパネルを操作して行き先を指定すると、エアカーはオートパイロットで動き始める。人が運転することも可能だが、何か不測の事態でもない限り、基本的に人が運転することはない。
微かな浮遊感の後、エアカーが移動を始めた。徐々に加速しながら、道路の上に浮いた状態で振動も騒音もなく滑るように進むエアカーに、ちょっとうきうきする。
実はエアカーに乗るのは初めてなのだ。
初仕事の時は官庁街の近所だったので、移動は歩きだった。
初めてのハイテクカーに浮かれているのを、班長に悟られてはまた怒鳴られかねない。オレは努めて表情を固くした。
それが裏目に出たらしい。
班長はいつにも増して不愉快そうにオレを見つめる。
「コンビを組むのが不愉快なのはオレも一緒だから、普通にしてろ。怪しまれる」
「すみません。エアカーに乗るのが初めてなので、少し緊張してるだけです」
浮かれてるとは言わない。すると班長は少し目を見開いた。
「ロボットも緊張するのか?」
やばい。人間くさすぎたか。
中身が人間だとばれる心配はないが、ロボットらしくするのも結構大変なのだ。
オレが返答をためらっている間に、班長は勝手に納得していた。
「バージュモデルは本当に人間っぽいな」
「そうですか?」
「あぁ。だから気に入らない。調子が狂う」
「そうですか」
なにかイヤなことでも思い出したのか、班長は顔をしかめて目を逸らす。