昼休みの開始を告げるチャイムがスピーカーから流れる。
 けれどリズは変わらずコンピュータを操作している。いつも通り聞こえていないようだ。
 ため息をついて声をかけようとしたとき、オレの隣に座ったダレムが先に声をかけた。

「リズ、昼休みの合図が鳴りましたよ」
「あら、そうだった?」

 リズはようやく顔を上げて席を立つ。オレたちも立ち上がり、立体パズルに興じるムートンの隣から離れてリズの元へ向かった。

 風紀をとやかく言われてリズとふたりきりで研究室にこもるのは緩く禁止されているが、最近は調整や社会勉強ということでダレムが研究室に一緒にいる。

 オレが起動するまでは、ムートンがひとりで黙々とパズルに興じていた部屋の隅に、今は猫のトロロンも含めて四体のロボットがひしめき合っていた。

 ムートンはマイペースにパズルを組み立て、時々ダレムと会話を交わしている。
 人や精巧なヒューマノイド・ロボットと違って、たまにとんちんかんな受け答えをするムートンとの会話が、ダレムにとっては興味深いものらしい。

 見かけはグリュデのところにいた時と同じ有能でクールな秘書ロボットのままだが、中身をリセットされたダレムは、主に感情面で無垢な子供と変わらない。

 あらゆるものに興味を示し、何にでもチャレンジしてみる。

 もっとも基本プログラムと絶対命令があるので、法に触れるようなことはない。

 人格は以前とほぼ同じに設定されているらしい。落ち着いていて柔和な性格なのに、時々突飛な言動をかますダレムは、警察局内で愛すべきおかしなロボット人気をオレと二分していた。