動かなくなったヴァランを護送班のところまで運んで、オレの仕事は終了した。
 ヴァランはこれから鑑識でチェックを受けた後、記憶も人格もリセットされる。グリュデ自慢の優秀な秘書スキルもきれいに忘れてしまうのだ。
 もったいない気もするが、バージュモデルがメモリに蓄積した仕事スキルは記憶と密接に関係しているので、記憶だけ切り離してクリアすることが難しい。
 高性能なバージュモデルだから、解体処分はないだろう。今度はいい主人に巡り会えることを祈る。

 ヴァランを運んだ後、元の部屋に戻ってみると、部屋の隅でリズがへたり込んでいた。そばにシャスがしゃがみ込んで心配そうに声をかけている。

 まぁ、この間と同じ。極度の緊張から解放されて一気に気が緩んだらしい。
 また気を失ってはまずいので送って行けと班長に命令されて、オレはみんなより先に現場を撤収することになった。
 リズとオレへの事情聴取は明日ということになる。
 ガラスのない窓から外を眺めると、やはり派手な強行突入が野次馬を呼んでいた。科学技術局のまわりには大勢の人がひしめいている。カメラやマイクを構えた報道機関の姿も見えた。
 この中にリズを連れて出て行ったらえらいことになりそうだ。
 そう思ったので、リズを上着に包んだまま横抱きにして窓から飛び立った。

 リズの悲鳴は野次馬のどよめきにかき消される。報道記者たちは元気なことに走ってオレを追いかけてきた。
 家に送るつもりだったが、リズが研究室に帰りたいと言うので警察局に向かって飛ぶ。科学技術局からは同じ官庁街の目と鼻の先にあるので、追っ手を振りきることは無理だろう。
 オレは通信で事情を説明し、警察局の入り口を閉鎖するように伝える。そして敷地内に直接降りることを許可してもらった。