ヴァランはスーツの上着を脱いでそばにあるイスの背にひっかけると、ゆっくりこちらにやってきた。
オレはリズを背中に隠して、彼の方に体を向ける。
ほんの二メートルほど先まできたヴァランは、そこで立ち止まり、オレをしげしげと眺めた。
「飛行装置ですか。センサガードを施してあったんですね。不覚にも気づきませんでした」
「オレもあんたがロボットだったとは、不覚にも気づかなかったよ」
「おあいこってことですね」
にっこりと笑みを深くするヴァランだが、やはり目は笑っていない。感情が読めなかったのはロボットだったからなのか。
向こうからグリュデが、聞きもしないのに得意げに説明をしてくれる。
「ヴァランはね、軍事用に開発した私の最高傑作なんだよ。だけど局内ではロボットの軍事利用に反対意見が根強くてね。もったいないから私の秘書として使うことにしたんだ。バージュモデルだから人とのコミュニケーションも円滑で学習能力も高いし、今では優秀な秘書ロボットだよ。軍事用とはいえ、実戦経験はないからね。そういう意味では、君の方が有利かな」
とはいえ、軍事用ロボットって戦闘能力が桁違いなんじゃないか? 格闘術なんか、この体になって初めて教わったくらいだし、中途半端な違法ロボットしか相手にしたことないオレには勝ち目がないような気がする。あいつらみんな比較的おとなしかったしな。