目的の場所が視界に入ってきて、徐々に速度が緩む。やがて足が止まったとき、目の前には高い壁がそびえ立っていた。

 ここがクランベール科学の頂点に立つ科学技術局。

 壁の高さは五メートル以上ある。中心に大きな金属製のゲートがあり、その横には守衛所と小振りな通用門があった。そこからちらほらと人が出てくる。こちらも定時上がりの局員だろう。

 まるで刑務所。高い壁に阻まれて中にあるはずの建物はほとんど見えない。
 幾重にも張り巡らされた赤外線センサに無数の監視カメラと監視ロボット。
 ざっと確認しただけでもセキュリティが半端なく厳重だ。どんだけ秘密主義なんだよ。

 こんなとこから誰にも見つからずに抜け出したバージュ博士ってすげーな。九十年前はもう少し緩かったのかもしれないけど。

 まぁオレは招かれてるわけだから、堂々と正面から行くことにしよう。

 通用門から出てくる職員たちの間を縫って、守衛所で用向きを伝える。中から女性型のロボット守衛が現れて、面会エリアに案内してくれた。
 にこにこしながらもぬかりなく発する彼女のセンサ類が気分的に痛い。上着の下に隠した飛行装置は、こんなこともあろうかとセンサガードを施してある。ロボットだらけだと思われる敵陣に乗り込むわけだから、こっちだってぬかりはない。

「誰にも知られずに地図の場所に来る」というリズの命令は、地図の場所に到着した時点で効力を失った。