一応なんとか朝までには充電が完了した。夜間にリモートでオレの記憶領域にアクセスがあったのは知っている。リズがシークレット領域にある大叔母さんの日記を見たのだろう。
たったそれだけのことで、リズがオレに接触してきたことに安堵する。妙な距離を置かれるかもしれないと思ってたからな。あの恋人ごっこの後みたいに。
まぁ、ただのロボット相手には緊張なんてしないか。それでいい。
いつものようにぼんやりと、掃除をしながら部屋を行ったり来たりしているムートンを眺める。そうしている間にムートンは掃除を終えて、いつもの定位置に移動した。彼は立体パズルに手を伸ばす。
あれ? 今日はリズ遅いな。
まさかオレのせいでショックのあまり休みってことはないだろうけど、ちょっと不安になる。
体調不良で寝込んでいるなら局に連絡はあるだろうが、はたして備品のオレにまで知らせてくれるかどうかは疑問がある。まぁ、直接通信できるから、その心配は無用か。
でも体調不良ならまだいいが、途中で事故にでも遭ってたら……。
そんなろくでもないことを考えてオレが不安を募らせているところへ、扉が突然開いてリズが駆け込んできた。
単なる寝坊だったのかな。ゆうべ大叔母さんの日記を見て夜更かししたから。
オレは内心ホッと息をついた。
ホッとしたと同時に少し疑問に思う。遅刻に焦っている風でもないが、何事かとオレは呆気にとられた。なにしろ始業時間にはまだ余裕があるのだ。
「オハヨウゴザイマス、リズ」
ムートンは我解せずといった調子で、いつも通りに淡々と挨拶をする。
リズは忙しそうに鞄を机の上に放り投げて、白衣を羽織りながら早口でまくしたてた。
「ムートン、おはよう。シーナ、仕事よ。すぐに捜査会議だから、一緒に会議室に行くわよ」
「え? 緊急指令とか流れてないけど?」
「それほど緊急じゃないからよ」
「なるほど」
「ほら、さっさと行動して」
のんびりと立ち上がるオレを、リズは苛々したように急かす。緊急じゃないんだろう?
「じゃあムートン、留守番をお願いね」
「イッテラッシャイマセ」
ムートンに留守番を頼んで、オレたちは慌ただしく研究室を出た。
リズは急いでいてもムートンに声をかけるのは忘れないらしい。オレには朝の挨拶もなしだっていうのに。まぁ、最初からオレの方が扱いは低かったけど。
やっぱ昨日のは、間違いなく思い違いだな。