「顔洗いてー」
研究室に戻ったオレは再びケーブルに繋がれていた。さっき途中だったからな。
オレの独り言を聞いて、リズはコンピュータを操作しながらクスクス笑った。さっきは一緒になって不愉快になってたくせに。少しムッとしたと同時に、イタズラ心が芽生えた。
あの気持ち悪さを味わわせてやる。
オレはおもむろにリズの頬を両手で引き寄せ、さっきおっさんにされたように顔を近づけた。
「いきなりこーんな近くにおっさんの顔があんだぜ」
「ちょっ……! 放して!」
オレの腕を掴んでリズが抵抗するが、放す気はない。まぁ、命令されれば従ってしまうんだろうけど。
命令がないので、さらに顔を近づける。
「興奮してしゃべるたびに息が吹きかかるし気持ち悪いだろ」
「息かかってるし!」
あ、そうなんだ。ため息つけるのは知ってたけど、呼吸してないのにオレもしゃべるとき息が出るんだ。ホント、無駄に人間くさいよな。
などと感心しているうちに、どういうわけかリズの抵抗が止んだ。
脈拍上昇。手のひらに伝わる熱が次第に上昇していく。目の前にあるリズの顔は真っ赤だ。
あれ? 気持ち悪いどころか、テンパってるらしい。
そっか、忘れてた。オレ、おっさんじゃなくて美少年だった。
気づいたときには、リズの栗色の瞳が潤み始めていた。
やべぇ。悪ふざけが過ぎたか。
リズは消え入りそうな声で、絞り出すようにつぶやく。
「お願い……。放して……」
命令じゃなくてお願いされるとは。