「ええ、そこが葛藤なんですよね…つまり、下描きの段階では主観を外して描いて、着彩になったとたん主観全開でっていう…ああ…だから自分、下描きがキライなんだ…」

冬馬は一人、納得してうなずいた。

「キライだったんだ、下描き…」

「なるほどなぁ…だから冬馬は下描き描かずに、いきなりその色で描いてたのか…」

榎本は聞けずにいた、冬馬の独特な描き方の理由が分かってスッキリした。

「だって、ひと手間はぶけますし…」

「いや、そうなんだが…そのやり方は、けっこ〜高度なデッサン能力があってこそだぞ?冬馬」

「すごいな冬馬、やっぱ生まれつきデッサン力があるんだな」

「いえ…え、そうなんですか?先生」

「ああ…それもあるが、冬馬は部内一、出席日数が多い奴だからなぁ…描いてる時間はダテじゃないって事だろ?」

榎本がそう答えると突然、黙って絵を描いていた春日が声を上げた。

「だからぬかすよ、冬馬!」

「いえ、もう春日さんの方が、描いてますよ…」

「私、中学の時、運動部だったから、まだまだだよ」