「…最近、やっと慣れてきたわ」

「え、何がですか?」

冬馬は絵を描く手を止めずに、聞き返した。

「油絵のニオイだよ…」

「え、します?」

「するよ、結構きついニオイだぞ…さすが美術部員だな、ぜんぜん気にならんとは…」

椿は感心して腕を組んだ。

「私はこのニオイ好きだけど…」

イーゼルを取りに、二人の側を通りかかった三年生の春日かおりが話に入ってきた。

「春日?お前、美術部だったのか…」

時々、美術部に遊びに来るようになっていた椿は、今だ全員の顔を把握していない事を知る…

「そうだよ、椿の方こそ何してるの?」

椿と春日はクラスメイトだ。

「見学、ここで会うの初めてだよな…幽霊部員か?」

「ううん、いつもは予備校に通ってるから」

「予備校?」

「絵の予備校ですよね、春日さんは美大志望だから…」

冬馬が描く手を止めると、説明した。