「でも、気が付いても何も変わらないようだな」

「結構慌ててはいますよ?」

「それでも堂々としているというのは度胸のある子だな」


よく分からないが、褒められているのか?


「直接会ったことはないが、前々から君達には興味を抱いていたんだよ。金にまみれた世界には綺麗な顔をしている人が残念ながら少ないが、二人とも申し分ない容姿で、政略結婚という形でも幸せそうに寄り添っている。一度話してみたかったんだ」


優しそうに笑っている神村に、私はすっかり心を落ち着かせたが、晴也にはまだ力が入っている。


「私は城ヶ崎さんが気に入ったよ」

「…私ですか?」

「凛としていて頭もいい」


頭脳的には、不良高しか入れなかった私ですが。


「何より大物になりそうなオーラが出ている」


マジか、と自分の身体を見下ろしてみるが、私には見えない。


「東雲君も、この子とは違って私が怖いようだが、城ヶ崎さんを守ろうとする強い勇気を評価するよ」


神村が晴也の肩に手を置くと、やっと晴也は肩の力を抜いた。


「幸せな時間を邪魔してすまなかったな。二人とも今度テレビ局においで、歓迎するよ」


神村はそう言ってエレベーターの方に歩いていった。

その姿は普通のおじさんで、オーラなんて全くない。

本当にあの神村なのか不安にまでなってきた…


「死ぬかと思った。咲の余裕さが恐ろしい」

「私は…もしもって時は、晴也が助けてくれるし」

「まぁ、出来る限りは助けますよ」

「頼りにしてますよ」


笑顔で言うと、晴也は少し顔を赤くして早歩きで先に行ってしまった。