「…それは下手したらダメな子供が出来上がるだけだが、君は今までかけてもらったお金を返せる自信はあるのか?」

「えぇ、もちろん。3倍にして返しますよ」


堂々と言い放って、私達の家がある階で降りた。

慌てて後ろからついてきた晴也が「相手が誰か分かってる?」と聞いてきた。

え、知り合い?と聞き返すと晴也は気が抜けたように私に身体を預けた。


「ねぇ…重いんだけど」

「神村のとこの会長」

「神村って、テレビ局の」

「そう」


気難しくて、食べ物にも服にもうるさくて、人脈が広くて、敵に回すといつの間にか味方はいなくなってるって…


「ヤバいじゃん」

「誰でも敵に回すの禁止!マジで禁止!」

「気付いてるなら言ってよ」

「驚いて言葉も出なかったんだよ!」

「どうしよ、嘘ついちゃった。お母さんが言ってたとか言ったけど、その場で考えただけだったのに」


慌ててはいるけど、どこからか来る心の余裕が私の口調を落ち着かせる。