日向 蒼に連れてこらされたのは図書準備室。
日向 蒼は掴んだ手を一向に離さない。

「 ねぇ。そろそろ手 離して。」
「あっあぁ。ごめん。」


物わかりいいんだ。
意外 …。

「 で?何の用?」
「……かった。」
「 え?」
「 さっきはあんな言い方して悪かった。俺、名前聞かれるのとかすげぇ嫌だから。つい … 」


それでかー。
内心ホッとした。
怒ってた訳じゃないんだ。
それに こんな律儀に謝ってくれるなんて。

日向 蒼って変な人。


「 でもなんで嫌なの?」
「 それ聞く?」

途端に日向 蒼の顔が赤くなる。
耳まで真っ赤だ。


あっ こんな顔もするんだ。
不覚にもキュンとしてしまった。


「 日向 蒼って女子みたいな名前だろ? だから、 小学生ん時にバカにされてそれ以来トラウマになってんだよ。名前に関しては全部。」

私は一瞬固まった。
だって。同じだから。あの人と。
日向 蒼がそんなこと言うから、また思い出してしまった。
手が震える。
頭をバットか何かで殴られたみたい。
目頭が熱くなる。


「 あ…そうだったんだ。」
「 お前も女子みたいって思ったろ?」
「 えっ?…そんなことないよ。日向 蒼って響き 、私意外と好きだし。それにっ……」
「 それに? 」


言おうとした言葉が出てこない。
喉につかえてもどかしい。
まるで私自身がそれを言うことを拒否してるみたい。


「 ううん。 なんでもない。」
「 そっか。つか、こんな事初めて言われた。お前、相当変な奴だよ。」


褒められてるのか、けなされてるのか良くわからないけど。
不思議と嫌な気はしなかった。

「 じゃあな。」
「 うん。」


胸がざわつく。

日向 蒼が言った言葉が頭の中で繰り返し繰り返し流れている。

日向くんと同じだ。
日向くんも言ってた。

日向 蒼にとっては些細な一言だったかもしれない。
けど、私にとってはすごく懐かしくて。

思わず涙が出てきた。

あいつは日向 蒼で、私の知ってる日向くんじゃないのに。
どうしても 重ねてしまう。
日向 蒼のことがもっと知りたいと思ってしまう。



私にはそんなことを思う資格なんてないのに……



「… 最低だ 。」