会議は二日目に入り、予定の時間を大幅に過ぎていた。





「まだ長引きそうなので、コーヒーをお願いできますか?」

「畏まりました」





潤は会議室からフロントに出向き、コーヒーを願いでた。

潤も葵の姿を探してしまっている。





「いないな」





潤も人知れず、葵を気にしていた。仁の味方をした訳ではないが、パリの出来事を目の当たりにして、少なからず責任を感じていた。話し合いをさせるべきだったと後悔していた。





「葵ちゃん……仁と会ってやってくれ」





自分のことの様に二人を気に掛けていた。





「ねえ、立花さん」

「今度は何?」





昨日とは違い、はしゃいだ感じがない。監視をしていた女性スタッフが、落ち込んだ様子で葵に話す。





「あの副社長さん、結婚してる~」

「え?」





葵は、怪訝な顔をする。





「だって、今、コーヒーを持って行ったでしょ? ありがとうって相変わらずのいい声で言ってくれたんだけど、コーヒーを受け取ってくださったら、左手の薬指に……キラリと」





女性スタッフは自分の左薬指を見せる。





「そう……」





女性スタッフに悟られないように、葵は考え込む。





「え~どんな方なんだろう、奥様は。きっと綺麗で、聡明で、スタイルもいいんだろうなあ」

「ど、どんな指輪?」





まさか目の前にいるとも言えず、どもる。





「え~そこまでは分からないよ。だって、女性は結婚指輪でも凝るけど、男性は普通じゃない? それに一瞬だし? やっぱり立花さんだって気になってるんじゃないのよ~」





肩をつんと叩く。





「いや、別に、そうじゃないけど」





つい、見てきたスタッフに詳しく聞いてしまった。自分からあの生活を投げ捨てた割には、諦めが悪い。





「会議が長引いていらっしゃるそうよ。おかわりを用意してあるからお持ちして」

「はーい」





もっと話しを聞きたい気もちを抑え、スタッフを送り出す。



仕事は山ほどあるし、歩けば仁や潤と会わないか気になる。もう、神経が疲れてたまらない。



ため息ばかりが増えて行く。



バックヤードに居るときさえも、秘書である潤が、何かを要求しにこないかと冷や冷やしていた。唯一くつろげるのが、女子のロッカールームだった。



このまま、逃げ切る作戦はもう一つ残されている。家族を病気にしてしまう事だ。義孝を急病人にしてしまおうか、それとも双子の弟のどちらかを事故に遭わせて、怪我をしてもらおうか。





「子供みたいなことをしてどうすんの」





ふと考える。仁は葵に会った時に、「会いたかった」と言った。



普通なら、びっくりしてしまうだろうし、「こんな遠くにいたなんて」とか、「元気にしていたか」と言うはずだ。でも仁は、「会いたかった、話を聞いて欲しい」と言った。葵の中に疑問が出てきた。





「もしかして、知っていて沖縄で会議をしたの?」





疑問は大きくなるばかりで、葵を不安にさせた。腕時計を見ると、お昼を少し過ぎたことろだ。ロッカーを開け、スマホを取り出す。葵は離婚後、アドレスと電話番号を全て変えていた。この時間なら、母の恵美子が居るはずだと、自宅に電話をかける。



何コールか鳴らすと、予想通り、恵美子が電話に出た。