「お好きな席にお座りください」





潤の一言で、それぞれが席につく。席は決まっておらず、好きな席に座る。





「堅苦しいことは抜きに致しまして、お食事をお楽しみ下さい。副社長である、名波 仁より乾杯のご挨拶がございます」





潤の合図で、仁は席を立ち、挨拶を始める。名波商事一行は、既にスーツからTシャツなどのカジュアルな服装になっている。





「グループ各社、支店のみなさん、日頃は会社に尽力していただき、心より感謝を申し上げます。社員あっての名波グループです。これからも人材育成と社の発展の為にお力添えをよろしくお願い致します。息抜きを兼ねた沖縄です、堅苦しい挨拶はこの辺にして、乾杯」





仁が高々にグラスを挙げ、乾杯の音頭をとった。





「乾杯!!」





総勢50名の乾杯は圧巻だった。乾杯を合図に歓談と食事が始まる。スタッフは、一斉に動き始めた。

仁は潤と二人で席に座り、膝の上にナフキンを広げ、食事を始める。





「葵に会った」

「本当か!?」





ナイフとフォークで前菜を切っていた潤はその手を止めた。





「ああ、お前気が付かなかったか? 会議後にコーヒーを運んできていた。それで追いかけたんだ」

「それで?」

「まあ、拒否されるのは分かっていたけどな。その通りだ」

「そうか」

「忘れかけてたのにと、また、泣かせてしまった」

「忘れる努力をしていたってわけか」

「可愛かった……」





仁の口からそんなことを聞くとは思わなかった潤は、口をあんぐりと開ける。





「のんきなもんだ」





仁の顔は、拒否されたにも関わらず、自信に満ちている。

食事はコースで、食事の進行状況を見て、次のメニューが運ばれてくる。





「顔を出すとは思っていないが、つい、探してしまうな」

「わかるよ……話を聞いてくれるまで頑張るんだろ?」

「もちろんだ」

「大丈夫だ、葵ちゃんはお前のことが好きだ。だから許せなくて離れて行ったんだ。自信をもて」

「ああ」





葵を抱きしめた温もりが蘇る。



これほどまでに待ち望んでいた物がそこにある。副社長の身分を忘れ、葵の迷惑も考えずにホテル内を探し、葵を無理やり連れ出したい。それが本音だ。抑えられている自分を褒めたい。仁に課せられた課題は葵に会ったことで、一歩前進をした。