謝罪の言葉と共に、咳が続いた。



「…あら?もしかして…乃々香ちゃんも、風邪ひいてるの?」



嘘兄の後ろに、少し距離を置いて立っている志織さんが半分気遣うように、半分疑問系で言う事に私は首を傾げた。



も、って何?


困惑した顔を、私に面と向かう中堀さんに向けると、彼はにやっと笑った。



「乃々香が先。俺が伝染されたんだよ。同じ家だから、仕方ないけどね。その分乃々香は軽くなったんじゃない?」



声だけ聞けば、淡々とした口調にしか思えない。



だけど。


私の目に映る彼は。


艶っぽく笑っていた。





「そうなのね、お大事にね」



志織さんは優しく言った。



う、薄暗くて、助かった。



北風万歳。



一瞬で真っ赤になった私の顔を急速冷凍してくれるから。



中堀さんの影になって、私の顔は志織さんにはちらっとしか見えていないだろうけど。



「…そうそう、ちょうど良かった、今話してた所なんだ。乃々香。」



そんな私を面白そうに眺めながら、嘘兄は真面目な声を出す。



「火曜日に志織が会社にまで行ったんだって?」



え、と私は俯きかけた顔を上げた。