「寒い…」
この冬一番の冷え込み、という天気予報の為に、沢山着込んできたのだが、足りなかったらしい。
会社の外に出て、その事実をはっきりと確信した。
腕時計に目をやると、長い針は23分を指している。
ちょうどいいかも。
マフラーに顔を埋め、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
そういえば。
ふと気付く。
中堀さんと会った日から、今日で一週間か、と。
早いもんだな、と他人事のように感じた。
心を奪われてしまう時間としても、早い。
例えば、これが芸能人だったら。
本気で好きだ、なんて、私は思わなかっただろう。
憧れと好きの境で悩むことなんて、なかっただろう。
ある意味芸能人以上に手の届かない人なんじゃないかとは思うけど。
「あれ」
目の前をひらりと落ちていく物体に、思わず驚きの言葉が漏れた。
周囲を見回すと、幾人かの人たちも私と同じように空を見つめている。
「雪だ…」
道理で寒いワケだ。
牡丹雪っていうんだろうか。
花びらみたいに大きな雪片がひらひらと舞う。