「乗って」
引いていた手を放し、中堀さんが言った。
はっとして前を見ると道路の脇にハザードを出して停まっているいつかの高級車。
顔を隠すようにして頷くと、私は中堀さんが開けてくれているドアから後ろの席に乗り込んだ。
「あんた俺のことは二度も叩いたのに、あの男のことは叩けないのな?」
運転席に座り、ドアを閉めた瞬間、中堀さんがからかうように言う。
…そうだった…
私、またやっちゃったんだった…
朝の出来事が思い出され、自分の立場がこっちに転んでも危ういことに気づく。
「それは…」
「泣いてるの?」
「っ…」
言いかけ、被せられた質問に詰まる。