可憐で健気で愛くるしい、いつもの小柳の笑顔。


それは周囲を和ますだけでなく、何もかも隠すことにも最適で最強の盾だ。





陸はわかっていながらも、それなりに胸が痛んだ。

多分これ以上、彼女の口から本音を聞きだすことは不可能だと思った陸は、諦めてベンチから立ち上がる。




「…そうか、勘違いか。…わりぃ変なこと言って。帰るわ」


「また、明日ね」


「おう。じゃあな」



陸は僅かに小柳と視線を合わせ、中庭を出た。



以前から感じていた、彼女のもつ不自然な心細さと冷たさを、陸は一段と感じていた。


そして、頑なまでに厚い氷を。







一度知ってしまった夏の名残り風は、なかなか忘れることが出来そうになかった。


あの日までは、ごくありふれた夏の湿った風だったはずだ。