カバンを取りに行った優月の足は止まった。
何となく、このまま真っ直ぐ家に帰るのが億劫だった。
陸と一緒に居たくない訳じゃない。
でも、気持ちを隠して平然を装うことに、まだ慣れていない。
下手して陸を避けたら、きっと怪しまれてしまう。
優月はそう思った。
忘れようとして、ずっと誤魔化してきたはずだったけれど、そんなこともう無理だと分かってしまったのだ。
後夜祭が始まっていた体育館。
一番後ろに座り、次から次へとステージに出演する生徒達を長澤と並んで眺めた。
コントのグループの番になった時、優月はぼそりと呟いた。
「…何で教室に戻ってきたの?忘れもの?」
「ん?佐野ちゃん探してたんだよ。辻井に聞いたらまだ教室にいるって言ってたから」