――――三月。
卒業式を終えた陸は、賑わう教室で柄にもなく、クラスの人と誘われた写真を撮った後、久しぶりに中庭へと向かった。
賑わいから遠ざかったその場所は、いつもなら静けさに心を安らげていたが、今日は少し違った。
式の終わりに贈られた小さな花束を、ベンチにそっと置き、腰をかける。
目を細めながら陸は空を仰ぎ見た。
いつものように……。
そこには淡い青空が広がり、春の心地良い日差しがたっぷり降り注いでいた。
通い慣れ、愛着だって湧く、特別な場所それがもう……
“本当に、今日が最後の場所……。”
これまで感じたことのなかった寂しさや、ここで過ごしてきた時間を思い返すととても名残り惜しく、式では有り得なかった切なさが途端に込み上げた。
鼻の奥がツンと感じ、指ですすると、足音にハッとして振り向く。
かつてここの常連だったあの彼女が花束を手に、軽く会釈すると柔らかい笑みを向けた。