(……はぁ。まだ残ってたんだ)
優月は誰にも分からない程度にため息をつく。
「お、佐野ちゃんじゃん。部活だったの?」
「そうだけど」
顔も見ずに呟き、そのまま机の中に忘れていたノートを取る。
「お疲れ様でーす」
まるでご主人様が帰ってきて出迎える犬のように、長澤は真っ先に優月に駆け寄る。
「よし、帰ろっか。じゃ、まった明日なー!」
「おう、じゃあな!」
『また明日な』は優月に向けての言葉ではなく、他の男子軍団に向けられた言葉だった。
彼女の前をずんずんと、でも軽くスキップもまじえながらご機嫌に歩く長澤。
訳も分からないそんな行動に、優月は怪訝な顔をした。
「ちょっと…、待ってよ。何で?一緒に帰るなんて一言も言ってないけど」
「んー?いいじゃん。どうせ帰る方向同じなんだし」
確かに長澤と優月は同じバスを使っていた。