そしてたった一つの何気ない問いかけが、優月の知らないとこで回った時間軸へ巻き戻す鍵となるのだった。
過去に眠り、今に繋がる大きくかけがえのない出来事があった時間へと……。
その場に座りこんだまま、仁科は彼女に語り出す……。
「はぁ~懐かしいな。これね、入部して一番最初に作ったんだ。体験入部でちょっとやってみようってなったんだけど。私さ、めちゃぶきっちょでね~。って、知ってるか、ははは」
こくりと頷き、声には出さず肯定する優月は、話を聞きこむ体勢になる。
元部長ではあるものの、仁科は部内一のぶきっちょで有名でもあった。
そんな彼女だが、何も器用さだけが全てじゃない、人一倍のやる気と元気、声のデカさと明るさが、彼女の部長任命理由だった。
何度も指に針を刺して叫んでいたり、ミシン一つとっても、糸の設置に手間がかかり、そして何より危なっかしい。