里乃の話が頭になかなか入らない。
全然追いつかない。
優月は聞きながら、目をしばたかせる。
だって、彼女は散々里乃から後藤和真(ごとう かずま)の悪口を聞かされていたのだ。
二人は入学当初から犬猿の仲で、良い風に言い換えればケンカするほど仲がいい関係だった。
気持ちとは裏腹に、ひょっとしたら里乃は後藤のことが好きなんじゃないかと、疑ったり本人にも聞いてみたりしたこともある。
でも、大抵有り得ない、冗談じゃないと言い張った。
それに、ついこの間は後藤より長澤のほうがいいとまで言っていた。
「…という訳で、文化祭の日、一緒に回れなくなっちゃった。ごめんね」
快活さが売りの里乃が丁寧に深々と頭を下げる。